先日父から悲報を受けた。 大切な方が、他界された。 その方は91歳の奥様で、母が食器の店をやっていた間大切なお客様だった。 私がイギリス大学留学を目指して準備を始めて以来、応援してくれた方だった。 奥様は以前学校の先生をしていたこともあり、教育熱心な方だった。 また、長女の娘さんがイギリスに博士号留学をして、国際結婚されてロンドンに住んでいらっしゃることもあって、イギリスに行きたがっている私をまるで孫のように応援してくれたのだ。 母とともに、何度か奥様のご自宅へ伺った。 お年を召していたけれど、いつもお元気そうで、ウェッジウッドのティーセットで美味しいアールグレイを淹れてくれた。 おしゃべり好きな奥様は、ご活躍なされていた娘さん達の自慢話から、どれだけ国際的な教育がこれから必要かなどを、切りなく話された。 イギリスにお孫さんがひとりできてからは、英会話のラジオ講座を、さらに熱心にやるようになったともお話されていた。 私が16歳で初めてロンドンの語学学校へ行った時も、奥様のご紹介をあやかって、娘さんのところにもお邪魔させてもらったりした。 大学留学中も夏休みには必ず一度は母と顔を出したものだったが、毎回帰り際になると「これで参考書でも買ってください」とお小遣いをそっと渡してきた。 包んでくださったのは大金だったので、あまりに恐縮で受け取れないと引き下がろうとも無駄な抵抗だった。 ありがたく夏休みのバイトの給料に足させてもらい、それで往復チケット代を自分で払えたり、ノート型パソコンを買えたりした。 私がBeと結婚した時も、アンが生まれた時も、とても喜んで会ってくれた。 この3年ほど、お手紙を出しても返事が一行にこなかった。 2年前の私の母の葬儀には、奥様はお体の具合が思わしくなく、ご主人様のみ参列してくださった。 そして今月、他界された。 人の目の奥を見据えるような、厳しい眼差しと、温かい笑顔をお持ちの、古き良き日本の女性だった。深い深い懐と、坐った意志が常に感じられた。 古い人ではあったけれど、誰よりも外に興味を示して、受け入れようという姿勢をお持ちだった。 「私はあつこさんの応援団長ですから」 と、海外に出ようと思っていた幼い10代の私に、日本の強く素晴らしい女性がいつも声をかけてくれた。 その言葉と思いが、どれだけ当時の私の背中を押したかわからない。 本当に、あの頃の私の 応援団長だったのだ。家族と同じくらい、いつも思っていてくれた。 私も奥様のように厳しく温かい人になりたい。 アールグレイのお茶をいれるたびに、これからもずっと、奥様を思い出すと思う。 夏はあまりアールグレイを飲まないので、もう少し待って。 秋になったら、奥様がしてくれたように丁寧に淹れて、もう会えない人達のことを思ってみるのも悪くないかもしれない。
by annebm
| 2010-07-30 05:29
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